脂肪由来幹細胞(ASC)とは?
幹細胞の注目される機能
脂肪組織には、幹細胞と呼ばれる細胞が含まれています。これを脂肪由来幹細胞(ASC)といいます。脂肪由来幹細胞(ASC)は、自分自身のコピーを作る「自己複製能」と、骨や軟骨、心筋細胞、血管新生に関わる細胞などになる「多分化能」があり、キズを治したり、免疫を調整したりすることに役立つと考えられています。
脂肪由来幹細胞(ASC)治療について
治療の背景
変形性関節症(OA)は、骨と骨の間に存在する軟骨がすり減ることで、滑らかな動きが出来なくなり大きな摩擦を生じるようになった結果、関節に痛みや腫れが起こる病気です。OA は、肩・ひじ・手関節・股関節・ひざ・足関節を含む全身のあらゆる関節に起こる可能性があり、慢性的な日常生活動作(ADL)障害、生活の質(QOL)低下を来す重大な疾患です。特に荷重関節である股や膝に起こりやすく、40 歳以上の780万人が変形性膝関節症による膝痛を経験していると言われています。
自分の脂肪を利用する負担の少ない再生医療
従来のヒアルロン酸注射を含む保存療法では痛みが取れないものの、一方で、骨の変形までは病気が進んでおらず、人工関節の手術を避けたいと考える患者さんに適しているのが、脂肪由来幹細胞(ASC)治療です。
患者さん自身から少量の脂肪を採取し、そこに含まれる幹細胞を培養した後、ひざ関節等に注入します。誰もが持つ自然治癒力を利用し、病気の進行を遅らせたり食い止めたりして痛みを取ることを目指す、からだに負担の少ない治療です。また、患者さん自身の脂肪を利用するため、拒絶反応等のリスクも極めて低いです。
治療のメリット・デメリット
メリット
・痛みの改善や関節可動域の拡大などが期待できます。
・脂肪組織の採取量が少なく、治療も注射のみであるため体への負担が少ないです。
・患者さま由来の脂肪組織から作製されるため、拒絶反応等のリスクは極めて低いです。
デメリット
・1回の治療による効果の持続時間について、詳細に言及する十分なデータがありません。
・治療が完了するまでに時間がかかります(半年目安)。
・治療後に関節を動かさないと硬くなることがあります。
・治療による痛み、炎症(熱感、赤み、腫れ)を伴います(数日間)。
・変形が強い人には効果が出ない若しくは弱いことがあります。
・感染症、リウマチの患者さまには治療ができません。
・治療が社会保険や国民健康保険など、公的医療保険の適用を受けることができません。
・投与部位と脂肪採取部の一時的な痛み、皮下出血の可能性があります。
・投与部位と脂肪採取部に感染症が起こる可能性があります。
・脂肪採取部が一時的に硬くなる可能性があります(数ヶ月)。
・細胞培養にウシ血清を使用しており、それに対する異物反応(アレルギー反応等)が起こる可能性があります(頻回の洗浄を行いますが、完全に排除することができないため)。
治療の流れ
- ステップ1: 問診・診察
- 変形性関節症の症状や、これまで行ってきた治療についてお伺いし、脂肪由来幹細胞(ASC)治療が効果的かどうか診断します。
そして、治療の細かい内容や流れ、注意事項を詳しくご説明します。ご同意頂いた上で、感染症などの検査のために採血をし、脂肪採取日を予約して頂きます。
また、患部の画像診断のため他医療機関にてMRIを撮って頂きます。
- ステップ2: 脂肪の採取
- 予約日に来院して頂きます。
患者さまの腹部に局部麻酔を行い、カニューレと呼ばれる専用の器具で皮下脂肪(脂肪組織)20mlを吸引し採取します。脂肪吸引方法は、これまで美容外科で行われてきた方法と同じ安全なものです。
脂肪採取の準備から一通りの処置が終わるまでの所要時間は約1時間となります。
- ステップ3: 抽出・培養
- 採取した脂肪組織を再生医療センターに送り、幹細胞を抽出し、200~300倍に培養します。
※培養と検査で約6週間必要とします。
- ステップ4: 注射
- 脂肪の採取から約6週間後、培養した幹細胞を関節内に注射します。
- ステップ5: 投与後
- 若干の内出血を来すことがあります。また、血流の良くなる行動(長時間の入浴、サウナ、運動、飲酒など)をすると、治療に伴う痛みが強くなることがありますので、2~3日は安静に過ごしていただき、1週間後から筋力強化やストレッチなどのトレーニングを患者様の状態にあわせて開始します。関節周囲等の筋力を強化することで、変形性関節症の進行を遅らせたり、症状を軽減させる効果が期待できます。刺激に対して痛みを強く感じるときは、適宜鎮痛剤の服用を行ってください。
治療後は経過観察のため、1か月後、3か月後、6か月後にご来院ください。
よくあるご質問
- ひざを切開することになりますか?
- ひざの切開は必要ありません。
本治療では、培養した細胞をひざ関節に注射器で注入するだけなので、ひざを切開する必要はありません。患者さんの身体的な負担は、ヒアルロン酸注射を打つ時とほとんど変わりのないものです。 - 入院の必要はありますか?
- 入院の必要はありません。
ほとんどの場合、本治療はすべて外来で行われます。入院の必要はありません。脂肪組織を採取した日から約6週間後には、培養した幹細胞を注入します。 - 高齢ですが、治療を受けることができますか?
- 受けることができます。
からだに負担の少ない治療なので、高齢でも治療を受けることができます。ただし、ひざ関節の破壊が進んでいるような重度の方は、年齢に関わりなく手術が適している場合もあるので、医師とよく相談することが大切です。 - なぜ自由診療なのですか?
- 新しい治療法をいち早く提供するためです。
脂肪由来幹細胞を用いた治療は、すでに先進的な医療として行われていますが、どこの医療機関でも健康保険を使うことはできず、自由診療で行われています。健康保険の適用が認められるためには、臨床試験を行う必要があり、認可されるまで何年もの年月がかかります。いま現在、痛みを抱えて、なんとかしたいと考えている患者さんに、いち早く新しい治療を提供するために、自由診療としています。
なお、本治療では、再生医療等安全性確保法に基づいて、各種の手続きや細胞の培養加工が行われています。
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脂肪由来幹細胞(ASC)治療を実際に受けられた患者様の声
- 68歳女性・両変形性膝関節症(末期)
- 体の弱い夫を一人にすることを考えると、退院までに日数がかかる手術は難しい状況でした。しかし、毎日膝の痛みが続き、本当にどうしていいか分かりませんでした。
治療は想像していたより、ずっと簡単で、長い間の痛みや不快感がなくなり、驚きました。
私の場合、治療後すぐに効果が現れ、この状態がずっと続いてくれるよう願っています。
治療後のリハビリも受けましたが、半年経った現在、驚くような変化で痛みがなくなりました。痛みがないので、動きもよくなり、筋力もついてきたかなと思っています。 - 75歳女性・両変形性膝関節症(末期)
- 3年前から、膝の痛みがあり、入院しないですむため、こちらの治療を受けることにしました。
治療後3ヵ月が経ちますが、以前の痛みがなくなり、明るい毎日を送っています。
詳しい説明をお聞きになられたい患者様は、診察の際にお気軽にご相談ください。